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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)383号 判決

控訴人 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 秋山昭八

同 近藤登

同 曽我部東子

右弁護士秋山昭八訴訟復代理人弁護士 菊地幸夫

被控訴人 株式会社相模原ゴルフ・クラブ

右代表者代表取締役 中馬辰猪

右訴訟代理人弁護士 秋吉一男

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人が、訴外相模原ゴルフ・クラブの正会員として、被控訴人所有のゴルフ場施設を利用する契約上の権利を有することを確認する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨の判決

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1  被控訴人は、ゴルフ場の経営及びこれに附帯する一切の事業を営むことを目的とする株式会社である。

2  訴外相模原ゴルフ・クラブ(以下「訴外クラブ」という。)は、被控訴人の株主を会員とする株主会員制のゴルフクラブであり、被控訴人が所有するゴルフ場施設を運営するために設けられ、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図り共通の利便を増進することを目的とするものである。

3  訴外クラブの会員には正会員と平日会員とがあり、正会員は、被控訴人に対して、ゴルフ場の休日を除き開場時間中ゴルフ場施設を利用する権利を有する。

4  訴外クラブは、被控訴人から、訴外クラブの会員の入会及び退会に関する事務を委任されており、訴外クラブにはその事務を処理する機関として理事会が設けられている。そして、原則として、被控訴人の株主であって理事会の承認を得た者が、訴外クラブの会員となる。

5  控訴人は、昭和四二年六月一七日、実父の通称を用いて乙山太郎の名義で被控訴人の株主となり、更に、同日、理事会の承認を得て訴外クラブに正会員として入会した。その結果、控訴人・被控訴人間に、控訴人が、訴外クラブの正会員として、被控訴人所有のゴルフ場施設を利用する契約が締結された。

6  訴外クラブは、昭和六〇年五月一九日、理事会の決議により、控訴人を訴外クラブから除名した。

7  しかし、右除名決議は何ら理由がなく、無効であるから、控訴人は、訴外クラブの正会員として、被控訴人所有のゴルフ場施設を利用する契約上の権利を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認容

1  請求原因1ないし4及び6の各事実は認める。

2  同5については、控訴人が、昭和四二年六月一七日、大山敏雄の名義で被控訴人の株主となったこと、控訴人が、後日、理事会の承認を得て訴外クラブに正会員として入会したことは認めるが、その余は否認し又は争う。控訴人が理事会の承認を得て訴外クラブに入会したのは、同年七月五日である。

三  被控訴人の主張

1  訴外クラブの理事会は、会員に、訴外クラブの会則(以下「クラブ会則」という。)に違反し、あるいは訴外クラブの秩序を乱し、訴外クラブの名誉を毀損する等、会員として好ましからざる行為があったときは、その決議によって、右会員に対し、戒告、会員資格の停止又は除名の懲戒処分をすることができる(本件当時におけるクラブ会則一八条二号)。

2  訴外クラブは、スポーツを通じて会員相互の親睦を図ることを特質とする団体であり、スポーツ精神に背く行為は、訴外クラブの存立を否定し破壊するものであるから、絶対に許されない。右のクラブ会則一八条は、訴外クラブを維持運営するために設けられた自治規約である。

また、右のクラブ会則一八条二号所定の、会員として好ましからざる行為は、ゴルフ場施設内で行われるとゴルフ場施設外で行われるとを問わない。すなわち、これらの行為がゴルフ場施設外で行われた場合であっても、その事実を知った会員は、その行為者とゴルフを共にし、また、会員として交際することを欲しない。それを無視し不問に付することは、訴外クラブ存立の本義であるスポーツ精神を否定することであり、訴外クラブの維持運営を不可能ならしめる。

3  ところで、控訴人は、訴外丙川株式会社(以下「丙川会社」という。)の脱税事案に係る法人税法、所得税法違反被告事件の被告人として、昭和五九年一月二七日、東京地方裁判所において懲役一年六月の実刑判決の言渡しを受け、昭和六〇年四月三日、上告が棄却されて右実刑判決が確定した。しかるに、控訴人は、右実刑判決の言渡しを受けた後、刑の執行を免れるため逃亡し、所在不明となった。

4  訴外クラブ内においては、新聞に脱税事犯の被告人として報道された小林敏雄なる者が控訴人を指称するものであることは知れわたっており、控訴人が脱税事犯により実刑の確定判決を受け、刑の執行を免れるため逃亡したことは、著しく反社会的であって、訴外クラブの会員に大きな屈辱と不快感を与えるものであるのみならず、訴外クラブの存立の精神に反し、その威信と名誉とを毀損するものであり、前記クラブ会則一八条二号所定の会員として好ましからざる行為に当たることが明らかである。そこで、訴外クラブの理事会は、昭和六〇年五月一九日、控訴人を訴外クラブから除名する旨の決議をし、これにより控訴人は訴外クラブの正会員たる地位を失ったものである。

四  被控訴人の主張に対する認否

1  被控訴人の主張1については、クラブ会則一八条二号としてその主張するような規定のあることは認めるが、訴外クラブの理事会に会員を除名する権限があることは争う。

2  同2は争う。

3  同3については、控訴人が刑の執行を免れるため逃亡したことは否認するが、その余の事実は認める。

控訴人は、当初、控訴人が刑の執行を免れるため逃亡したことを認めたが、これは真実に反する陳述で錯誤に基づくものであるから、右の自白は撤回する。控訴人が家を出たのは、不仲の妻との同居生活を回避するためである。

4  同4については、控訴人に対する訴外クラブの理事会による除名決議が、同3の控訴人の所為をもってクラブ会則一八条二号所定の会員として好ましからざる行為に当たるものとしてされたものであることは認めるが、その余は否認し又は争う。

五  控訴人の主張

1  控訴人・被控訴人間で締結された、控訴人が訴外クラブの正会員として被控訴人所有のゴルフ場施設を利用する契約は、今日に至るまで解除されておらず、右契約関係は存続している。すなわち、右契約の当事者は控訴人と被控訴人であり、契約解除権を行使し得るのは被控訴人のみであるところ、控訴人は、被控訴人から、解除理由を明記した適法な契約解除通知を受領していない。控訴人は訴外クラブから除名の通知を受けたが、権利能力のない任意団体である訴外クラブの除名通知には、被控訴人の行うべき解除通知としての効力はない。

2  クラブ会則は、会員の利益擁護のため会員の意思を具現する形で作られたものではなく、英米のプライベートクラブと同質といわれる社団法人制ゴルフクラブの定款を模倣し、企業主である被控訴人の営業の便法として策定されたものである。そして、右クラブ会則は、多くの矛盾を包含している上、会員間の合意を伴わず、私的集団を規制する効力を有しないから、それ自体無効であり、無効の会則中の懲戒規定に基づく決議もまた無効である。

3  仮にクラブ会則自体は有効であるとしても、控訴人を除名した訴外クラブの理事会決議は、次のとおり適正手続の要請に反するものであって、私的団体における構成員排除の手続として効力を有しない。

(一) 社団法人制ゴルフクラブである霞ケ関カンツリー倶楽部や程ケ谷カントリー倶楽部では、理事会の決議で除名ができる定めになっているが、いずれも審査委員会又は特別委員会を設けて調査に疎漏なきを期している。これに対し、訴外クラブにおいては、まずフェローシップ委員会に諮り、その審議結果を踏まえて理事会にかけたとしているものの、フェローシップ委員会の委員長は訴外クラブの副理事長であり、右は主導的メンバーが同一であって、形式的に二つの組織の積み上げを装っているにすぎない。

(二) 理事会において慎重な審議が行われた形跡がない。審議の資料とされたものは新聞記事、投書その他の伝聞資料であり、訴外クラブの会員の感情の調査結果も訴外クラブの威信、名誉の被害の実態も斟酌されていないし、右理事会における会議の速記録なども明らかにされていない。また、処分を急ぐ特段の事情もないのに、控訴人本人に弁解の機会を与えていない。

(三) 理事会は、資格停止という処分があるにもかかわらず、あえて除名という処分を選択したものであるが、資格停止では足りないほど訴外クラブの威信、名誉が毀損されたこと、ないしその会員が不快感を抱いたことの主張・立証もなく、この点においても審議が尽くされた形跡がない。

4  また、控訴人に対する除名事由とされている脱税や逃亡と間違われたことなどは、クラブ会則一八条二号の規定する「本クラブの名誉を毀損する等会員として好ましからざる行為があったとき」という処分事由には該当しない。この点を判断するに当たっては、特に次の点を考慮に入れるべきである。

(一) 団体性が極めて希薄である上、会員の多数決により運営されておらず、財政的な実体もなく、したがって法人格はもとより社団の実質も備えていない任意団体にすぎない訴外クラブについては、英米のプライベートクラブや社団法人制ゴルフクラブの場合と異なり、名誉なるものが存在するのか否か明らかではない。また、企業主である被控訴人についても、株主の私生活上の非行は企業の名誉とはかかわりのないはずである。結局、名誉の毀損を処分事由とするクラブ会則そものが不適切といわなければならない。

(二) 訴外クラブのように経営の便法として設置された擬似クラブについては、処分事由である会員として好ましからざる行為とは、競技中ないしゴルフ場施設内におけるルール違反を指称するものと解すべきである。いわゆる罪刑法定主義の理念からして処分事由の拡大解釈は許されず、ゴルフ場施設外における私生活上の非行のごときは処分の対象とはなり得ない。

(三) 除名処分を選択するに当たっては、多くの会員が控訴人と同じゴルフクラブに席を置くのも疎ましいというほどに迷惑を受け、そのため、控訴人を排除しなければ退会者が続出して訴外クラブの存続が危機に瀕するおそれがあったのかどうか、が検討されなければならない。

5  除名理由はその相当性、合理性の判断が可能である程度に具体的であるべきであるが、控訴人に対する除名理由は、訴外クラブの威信、名誉を甚だしく傷つけた、という抽象的表現にとどまるもので、このような除名決議は無効である。

6  本件の除名処分により控訴人はゴルファーとして致命的な打撃を受けるのであり、訴外クラブが控訴人に対する刑事処分のゆえに被ったかもしれない社会的評価の低下などの被害の程度と対比した場合、本件における理事会の決議は、権利の濫用として無効というべきである。また、右の決議は、平等の原則にもとるものであって、この点においても無効である。

六  控訴人の主張等に対する認否

1  控訴人の前記自白の撤回(被控訴人の主張に対する認否3)には異議がある。

2  控訴人の主張1ないし6はいずれも争う。

第三証拠《省略》

理由

一  被控訴人及び訴外クラブの各目的、訴外クラブの会員の種類、会員が被控訴人に対して有するゴルフ場施設利用の権利、訴外クラブの会員となる手続・要件(請求原因1ないし4の各事実)は、当事者間に争いがない。

そして、控訴人が、昭和四二年六月一七日、乙山太郎の名義で被控訴人の株主となり、その後理事会の承認を得て、その日時についてはしばらく措き、訴外クラブに正会員として入会したこと(請求原因5の事実の一部)、本件当時、クラブ会則一八条二号には、訴外クラブの理事会は、会員に、クラブ会則に違反し、あるいは訴外クラブの秩序を乱し、訴外クラブの名誉を毀損する等、会員として好ましからざる行為があったときは、その決議によって、右会員に対し、戒告、会員資格の停止又は除名の懲戒処分をすることができる、と規定されていたこと(被控訴人の主張1の事実。ただし、理事会に会員を除名する権限があるとの点はしばらく措く。)、控訴人が、丙川会社の脱税事案に係る法人税法、所得税法違反被告事件の被告人として、昭和五九年一月二七日、東京地方裁判所において懲役一年六月の実刑判決の言渡しを受け、昭和六〇年四月三日、上告が棄却されて右実刑判決が確定したこと、しかるに、控訴人は、右実刑判決の言渡しを受けた後、刑の執行を免れるため逃亡し、所在不明になったこと(被控訴人の主張3の事実)、そこで、訴外クラブは、同年五月一九日、右の控訴人の所為がクラブ会則一八条二号所定の会員として好ましからざる行為に当たるとして、理事会の決議により、控訴人を訴外クラブから除名したこと(請求原因6の事実、被控訴人の主張4の事実の一部)も、また当事者間に争いがない。

なお、控訴人は、右のうち刑の執行を免れるため逃亡したことについては、当初はその事実を認めながら、後に自白を撤回する旨主張するところ、《証拠省略》によれば、控訴人夫婦は仲が悪く、同居、別居を繰り返しており、控訴人が自宅からいなくなった昭和六〇年二月二二日ころ、別居していた妻がその実家から控訴人の自宅に戻ってくることになっていた事実がうかがえないではなく、また、控訴人本人も刑の執行を免れるため逃亡した事実を否定する供述をするのであるが、これらをもってしては、いまだ、控訴人の所為が刑の執行を免れる目的をもってされたものでなかったとは認めるに足りず、控訴人の当初の陳述が真実に反するものであったと認定することはできないから、自白の撤回についての控訴人の主張は採用することができない。

二  訴外クラブの入会及び除名に関する法律関係

1  控訴人に対する訴外クラブの理事会の除名決議の効力を判断するに先立ち、訴外クラブの入会及び除名に関する法律関係を検討する。

まず、《証拠省略》及びさきに説示した当事者間に争いのない事実並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  被控訴人は、昭和二八年一二月二八日に設立された株式会社であり、ゴルフ場の経営及びこれに附帯する一切の事業を営むことを目的としている。また、訴外クラブは、被控訴人の株主を会員とする株主会員制のゴルフクラブであり、被控訴人の委託を受けてその所有するゴルフ場施設の運営に関する事務を処理するとともに、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図るという親睦団体としての性格を有している。

訴外クラブの組織等について定めた規約として、相模原ゴルフ・クラブ会則(クラブ会則)のほか、相模原ゴルフ・クラブ規則施行細則、同理事選挙規定がある(なお、訴外クラブにおいては、平成元年六月にこれらが大幅に改正され、また、新たに理事会規則、入会資格審査規則、懲戒規則などが制定されたが、本件においては、この改正等による新規定については考慮に入れない。)。

(二)  訴外クラブは、当初、当時の他のゴルフクラブにならって社団法人として設立される予定であったが、そのころ、主務官庁である文部省がゴルフ場は社団法人としては許可しないとの方針を示したため、前記のとおり、権利義務の主体となるべき株式会社である被控訴人を設立し、これとは別に会員で組織される訴外クラブを設けてゴルフ場施設を運営する、という二元組織がとられるに至った(訴外クラブは、株主会員制のゴルフクラブとしては我が国で最初のものであるとされている。)。

(三)  訴外クラブの会員となるには、被控訴人の株主であって、かつ、訴外クラブの理事会の承認を得なければならない(したがって、被控訴人の株式を取得したからといって当然に訴外クラブの会員となるわけではない。反面、株主でない会員として、名誉会員と家族会員とが認められている。)。会員には正会員と平日会員とがあり、原則として、正会員は被控訴人の株式を三株、平日会員は一株を所有するものとされている。

(四)  訴外クラブへの入会の手続は、正会員二名の推薦を得て(ただし、昭和四八年三月二九日の理事会で、正会員二名の保証を必要とすると改められた。)、所定の様式による入会申込みをし、フェローシップ委員会による資格審査を経て、理事全員の一致の下に理事会の承認を得るものとされている。更に、理事会の承認を得た者は、被控訴人に対し、所定の登録料及び預託金を支払わなければならない。なお、昭和五八年七月二四日の理事会において、入会審査に先立ち、入会申込者の写真、経歴書等を約一か月間掲示して一般会員の意見を求め、審査の参考資料とすることが決定された。訴外クラブの入会審査は、以前は形式的なものであったが、近時、特に本件の除名問題を契機として、次第に厳格なものとなってきている(もっとも、現在でも、入会申込者のほとんどが入会を承認されているものと推察される。)。

(五)  控訴人は、昭和四二年六月一七日、株式の譲渡を受けて被控訴人の株主となり、更に、同年七月五日、理事会の承認を得て訴外クラブに正会員として入会した(入会の時期は、《証拠省略》に押捺されている入会承認印の日付により認定する。)。控訴人は、右入会に当たって実父の通称である乙山姓を用い、「乙山太郎」の名義でその会員となった。

(六)  訴外クラブの会員数は、昭和六三年三月三一日現在で、正会員一五四五名(個人一三六八名、法人一七七名)、平日会員四三〇名(個人四一二名、法人一八名)、家族会員一二名の計一九八七名であり、本件の除名処分当時もこれと大差がない。右は、三六ホールの規模を有するゴルフクラブとしては、他の会員制ゴルフクラブと比較して会員数が多いとはいえず、現今のゴルフ場の会員数それ自体としては、適正人数の範囲内にあるといえる。

他方、被控訴人の株主数は、同じく昭和六三年三月三一日現在で、一九六二名であり、このうち訴外クラブの会員でない者は六五名である。

(七)  ところが、これを訴外クラブの団体としての面から見ると、訴外クラブにおいては、右のとおり会員数が約二〇〇〇名に及ぶ上、株式と会員権とが抱き合わされて自由に取引される結果、株式を取得し訴外クラブに入会の申込みをする者の質は、おのずから多様なものとならざるを得ず、会員全体の間に地域的、職業的、社会的な共通性もなく、横の結び付きは希薄である。また、クラブの公式競技以外に会員同士が親睦を図る機会はほとんどなく、訴外クラブ自体の親睦団体としての性格は強いものではない(なお、訴外クラブ内には、一〇名ないし五〇名程度の会員からなる競技グループが相当数存在するが、これらは、出身地その他の点において共通性を有する会員をもって組織され、私的な親睦団体としての性格を色濃く有している。)。

(八)  訴外クラブ運営の基本方針及びこれに関する予算その他の重要事項の審議決定は、理事会が行う。しかし、理事会が審議決定した事項の執行は、被控訴人において行う。また、訴外クラブは、固有の財産を有しておらず、前記のとおり入会登録料及び預託金も被控訴人に納めるものとされている。このように、訴外クラブの運営は被控訴人の計算において行われ、そのクラブ会則等には、会計及び財産管理に関する規定自体が存在しない。

(九)  理事会は、右のとおり、訴外クラブの運営機関として、事業計画、クラブ会則等の改廃案、会員の入退会、懲戒、その他訴外クラブの運営に関する事項を審議決定する(決議は、原則として多数決による。)。理事会の下には、いわば諮問機関として、コース委員会、ハンディキャップ委員会等、八つの分科委員会が設けられており、これらは、訴外クラブの運営の円滑を図るため、各担当事項につき審議してその結果を理事会に具申し、また、理事会の諮問に対し答申するものとされている。

(一〇)  理事会の構成員である理事(定数は二〇名以内)は、理事選挙規定によって選出され、会員総会においてその選出が認証される。理事候補者となるためには、個人正会員として訴外クラブに一〇年以上在籍していることが必要であり、その選挙人となるためにも、同じく五年以上の在籍が要件とされる。理事の中から互選された理事長は、訴外クラブを代表する。

従来から、理事のうち何人かは被控訴人の取締役又は監査役がこれを兼務していた(被控訴人の代表取締役は訴外クラブの理事長を兼ねていた。)が、昭和六三年六月に行われた理事及び役員の改選では、被控訴人の役員全員が訴外クラブの理事を兼務するものとされ、被控訴人と訴外クラブの理事会との連携関係が一層強化されるに至っている。

(一一)  訴外クラブの全会員をもって構成する機関として、会員総会が設けられている。会員総会は、訴外クラブの運営には原則として関与せず、事業報告を受けるほか、クラブ会則及び理事選挙規定の改変、選出理事の認証その他の限られた事項について審議するものであり(決議は、その所有する被控訴人の株式数に基づく多数決による。)、被控訴人の定時株主総会の日に定時会員総会が開催され(例年、定時株主総会に引き続いて定時会員総会が開催される。実際の出席者は極めて少ない。)、また、理事会が必要と認めたとき等に臨時会員総会が開催されるものとされている。

2  ところで、前記一の事実によれば、本件のゴルフ場施設は被控訴人が所有するものであるが、これを訴外クラブが賃借している等の主張・立証はない。また、右1(一)、(八)ないし(一一)の事実によれば、訴外クラブは、これに全会員をもって構成する会員総会が設けられ、運営機関である理事会を構成する理事も会員の選挙によって選出され、これら会員総会、理事会のいずれも多数決により決議を行うものとされているほか、団体として備わるべき主要な点がクラブ会則等の規約をもって定められているから、相当程度社団としての実体を有しているといい得るが、しかしながら、固有の財産を有しておらず、会計及び財産管理に関する定めも存しないから、いまだ被控訴人と独立して権利義務の主体となる要件を満たすには至っておらず、いわゆる任意団体として、被控訴人から委託を受けゴルフ場施設の運営を代行しているにすぎないものと見るべきである。してみると、いずれにしても、本件のゴルフ場施設の利用を巡る法律関係は、被控訴人と個々の会員との間の契約関係に基づくものであると解するほかはない。

そして、1(一)ないし(四)のとおり、被控訴人の所有するゴルフ場施設を利用する前提として訴外クラブへの入会という手続がとられている実情等にかんがみると、入会申込者が理事会の承認を得て訴外クラブに会員として入会すると同時に、入会者と被控訴人との間に、被控訴人の所有するゴルフ場施設の利用に関する契約が成立する、と解するのが相当であり(この場合、クラブ会則は、右の契約上の権利義務の内容を構成することになる。)、したがって、控訴人については、1(五)のとおり、昭和四二年七月五日に理事会の承認を得て訴外クラブに正会員として入会すると同時に、被控訴人との間に、被控訴人の所有するゴルフ場施設の利用に関する契約が成立するに至ったものというべきである。

3  右に考察したところによれば、訴外クラブの会員が任意の退会、除名等の事由により会員たる資格を失うときは、同時に、被控訴人との間にゴルフ場施設の利用に関する契約関係もまた当然に終了することになる。そして、会員に対し訴外クラブの理事会が一方的な決議をもって行う訴外クラブからの除名は、その効果から見ると、会員の債務不履行を理由として被控訴人の側から右の契約を解除するものにほかならず、前記のクラブ会則一八条は、会員が負担すべき契約上の義務とこの義務の違反があった場合に所定の手続により契約を解除し得ることを定めたものにほかならない。すなわち、訴外クラブへの入会に伴い、個々の会員と被控訴人との間にゴルフ場施設の利用に関する契約が成立すると、会員は、被控訴人の所有するゴルフ場施設を優先的に利用する権利を取得し、被控訴人は、会員に対し、ゴルフ場施設を快適に利用させるべき義務を負担する。そして、他方、会員は、被控訴人に対し、年会費の支払義務を負担するとともに、クラブ会則に違反したり、訴外クラブの秩序、信用を侵害したり、ゴルファーとしてのエチケット、マナーに反するなど、会員として好ましくない行為に及ぶことによって、他の会員のゴルフ場施設の快適な利用を妨げることのない義務を負担するのであって、会員がこの義務に違反したときは、訴外クラブの理事会は、その会員を除名することにより、被控訴人のゴルフ場施設についての運営面の代行機関として契約の解除権を行使することができるのである。

しかしながら、右契約の解除は、会員から、そのゴルフ場施設利用権をその意思に反して奪い、かつ、これに種々の社会的不利益を与えるものであるから、クラブ会則一八条に該当する事由があればいかなる場合でも契約を解除し得ると解するのは相当ではなく、継続的契約である前記のゴルフ場施設利用契約において債務不履行を理由として契約を解除するためには、契約関係の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されることを必要とする、というべきである。これを本件で問題となっているクラブ会則一八条二号の「会員として好ましからざる行為」について見れば、非違行為がゴルフ場施設外において訴外クラブと関係なく行われた場合であっても、後記のとおり、当該会員が共にゴルフをするのでは他の会員がゴルフ場施設を快適に利用してプレーを楽しむことができないということもあり得るから、必ずしもその適用をゴルフ場施設内で非違行為が行われた場合に限定することは相当でないが、ゴルフ場施設外において行われた非違行為については、事柄の性質上、それが実際に契約上の信頼関係を破壊するといえるほどに他の会員によるゴルフ場施設の快適な利用を妨げるものであるかどうか、換言すれば、被控訴人にとって、それはとりもなおさず、被控訴人のゴルフ場施設の運営を代行する訴外クラブにとって、被控訴人と当該会員とのゴルフ場施設の利用に関する契約関係を解消しなければ、他の会員に対して快適な利用を得させることができない程度のものであるのか、が慎重に検討されなければならないと考える。

4  この点につき、被控訴人は、訴外クラブはスポーツを通じて会員相互の親睦を図ることを特質とする団体であり、前記のクラブ会則一八条は訴外クラブを維持運営するために設けられた自治規約であって、スポーツ精神に背く行為をした会員は訴外クラブを維持運営するためこれから除名する必要がある旨主張する。なるほど、右1(一)に見たとおり、訴外クラブは、被控訴人の所有するゴルフ場施設の運営に関する事務を処理するとともに、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図るという親睦団体としての性格を有しており、かつ、2に判示したとおり、相当程度社団としての実体を有しているのであるから、会員間の融和や組織の秩序を乱したり、訴外クラブの信用を低下させるなど、訴外クラブの目的を阻害する者がある場合には、これを訴外クラブから排除することが認められなければならない。

しかし、他方、右1(六)、(七)に認定したように、訴外クラブは約二〇〇〇名という多数の会員によって構成されている上、株式の自由譲渡が認められている結果、入会審査をある程度厳格なものにしたところで、その会員の質(教養、良識、マナー、技量など)はおのずから多様なものとならざるを得ず、また、会員全体の間に、地域的、職業的、社会的な共通性やこれを背景にした横の結び付きもない。しかも、クラブの公式競技以外に会員同士が親睦を図る機会はほとんど設けられておらず、更に、組織・運営の面について見ても、会員の総意を反映した民主的な運営がなされる仕組みになっていることは右1(八)ないし(一一)に認定したとおりではあるが、前掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、理事や分科委員会の委員など一部の者を除き、会員の大多数は訴外クラブの運営に関心があるとはいえず、必ずしも会員が主体的に訴外クラブを運営しているとはいい難い実情にあると認めざるを得ない。これらの事実によれば、訴外クラブの親睦団体としての実体は、控訴人の指摘するように、いわゆるプライベートクラブと同質の閉鎖的な社交団体ということはできず、快適なゴルフを楽しむという共通の目的の下に、多数の、かつ、質的にも多様な者の集う半ば開放的な団体とでもいうべきものであると考えられる。

右のような訴外クラブの実体にかんがみると、特に、訴外クラブを維持運営するという観点から、いわゆる団体自治の法理に基づき、前記の債務不履行を理由とする契約解除とは別個の要件の下に訴外クラブから会員を排除し得ると解するのは相当ではなく(訴外クラブの実質的な目的、すなわち、快適なゴルフを楽しむという会員共通の目的を阻害する者に対しては、ゴルフ場施設利用契約上の債務不履行があるものとして、訴外クラブから除名し、契約を解除することができると解されているから、これで格別の不都合はない。)、結局、訴外クラブの理事会の決議をもって会員を除名するには、前記のとおり、ゴルフ場施設利用契約上の信頼関係が破壊されることをもってその要件とすべきものと解するのが相当である。

三  理事会の除名決議の効力

1  そこで、まず、本件の除名処分に至る経緯を見るに、《証拠省略》とさきの当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨とを総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  控訴人は、丙川会社の脱税事案に係る法人税法違反被告事件の被告人として、昭和五九年一月二七日、東京地方裁判所において懲役一年六月の実刑判決の言渡しを受けた(被告事件の罪名は法人税法違反だけであると認められる。)。その後、控訴人の控訴は棄却され、更に、昭和六〇年四月三日、上告も棄却され、右実刑判決が確定した。

(二)  右法人税法違反被告事件は、東京都内五反田駅付近等におけるキャバレーの経営等を目的として設立された丙川会社の実質的な経営者であった控訴人が、同会社の所得について納税の申告をせず、二年間に合計約二億四六〇〇万円の法人税を免れたというものであり、控訴人と共に起訴された実弟の丁原松夫(丙川会社の当時の代表取締役)に対しては懲役二年、執行猶予四年の判決が言い渡されたが、控訴人に対しては、昭和五五年に風俗営業等取締法違反の罪(同事件は、丙川会社の経営するキャバレーにおいていわゆる過剰サービスをしたというものである。)により懲役四月、執行猶予二年に処せられていたこと等の事情が考慮されて、右の実刑判決が言い渡された。なお、法人である丙川会社に対しては罰金刑が言い渡された。

(三)  東京地方裁判所の右判決言渡し後、昭和五九年三月五日の新聞朝刊(読売)に「脱税には実刑」と題する記事が掲載され、この中で控訴人が脱税事犯で実刑判決の言渡しを受けたことが報道された。右の記事には、控訴人の本名(甲野一郎)とその経営する会社名が記載されたが、控訴人が訴外クラブの会員であることは明らかにはされず、また、控訴人の訴外クラブにおける通称(乙山太郎)も記載されていない。

また、昭和六〇年二月二六日の新聞夕刊(読売)には「脱税は犯罪・厳しさ空前」と題する記事が掲載されたが、この中で再び、控訴人が脱税事犯で実刑判決の言渡しを受け、最高裁判所で審理中であることが報道され、更にその後、同年四月五日の新聞朝刊(読売)に、控訴人の上告が棄却され、実刑判決が確定したことが報道された。これらの新聞記事においても、控訴人が訴外クラブの会員であること及び控訴人の訴外クラブにおける通称は明らかにされていない。

(四)  ところで、前記昭和五九年三月五日の新聞報道の後、しばらくして、訴外クラブに宛てて、匿名で、同日の新聞記事の切抜きと訴外クラブの会員名簿の一部(控訴人及び実弟丁原松夫の氏名が記載されている部分)とを合わせてコピーしたものが送られてきた。更に、昭和六〇年二月二六日の新聞報道の後、再び訴外クラブに宛てて、匿名で、同日の新聞記事の切抜きに「除名検討スベシ」と記載したものが送られてきた。

(五)  従来、訴外クラブ内では、控訴人が乙山太郎との通称を使用していたことから、控訴人の本名はごく一部の者にしか知られていなかったが、(四)の投書を契機として、控訴人の本名が甲野一郎であり、控訴人が脱税事犯で実刑判決の言渡しを受けたことを、訴外クラブの事務局職員、理事などが知るに至った。しかし、新聞報道があった後においても、訴外クラブの一般の会員は、控訴人と親しい一部の者などを除き、そのほとんどが控訴人が脱税事犯で実刑判決の言渡しを受けた事実を知らなかった。

(六)  他方、昭和六〇年三月一七日に開催されたフェローシップ委員会において、初めて控訴人の処置に関する件が取り上げられたが、当時、上告審において審理中であったため、その結果を待つこととなった。また、同月二四日に開催された理事会でも、この件が取り上げられたが、同じく上告審の審理結果を待つこととされた。

(七)  次いで、控訴人に対する実刑判決の確定後である昭和六〇年四月一四日に開催されたフェローシップ委員会においては、出席委員七名の全員一致の意見により、クラブ会則一八条二号に該当するとして、控訴人に対し最も厳重な処分(除名)を行うのが適当との結論に達し、これを理事会に上程することとした。そして、同月二一日に開催された理事会においては、ここでも出席理事一五名の全員一致の意見により、控訴人に対し除名処分を行うべきであるとの結論に達したが、控訴人に弁明の機会を与えるべきであると考えられたことと、控訴人が自発的退会の手続をとるかどうかを見定める関係から(この間、同月二〇日に、訴外クラブの理事長と副理事長とが控訴人の両親に面談し、自発的退会を勧告していた。)、次回理事会まで処分を留保することとした。

(八)  訴外クラブの理事長は、昭和六〇年四月二三日付けの書簡をもって、控訴人の実父に対し、改めて控訴人を自発的に退会させるよう促すとともに、同封して退会届用紙及び会員権譲渡関係書類を送付した。しかし、これに対しては、控訴人を代理して秋山昭八弁護士から、同年五月九日付けの内容証明郵便をもって、クラブ会則一八条に該当する事由があるとは認め難いので退会勧告には応じかねる、との回答が送付されてきた。

(九)  かくして、昭和六〇年五月一九日に開催された理事会においては、控訴人に自発的退会を勧告したが拒絶されたこと及び同月一〇日に東京高等検察庁から控訴人が収監を逃れて行方不明であるとして所在を問い合わせてきたことが報告された後、出席理事一五名の全員一致の意見により、控訴人を除名処分とする旨の決議をした。

(一〇)  そして、昭和六〇年五月二六日に開催された被控訴人の取締役会で控訴人を除名処分したことが報告された後、訴外クラブは、控訴人に対し、同月二八日付けの内容証明郵便をもって、「脱税事件に関し最高裁判所が上告を棄却した事実は、当クラブの威信と名誉を甚だしく傷つける行為である」として、クラブ会則一八条により控訴人を除名処分とした旨を通告した。また、訴外クラブは、その加盟する日本ゴルフ協会及び関東ゴルフ連盟に対しても、控訴人を除名処分とした旨を通知した。

(一一)  なお、従来、訴外クラブにおいて資格停止の処分が行われた事例は二件ある(会員の同伴者のゴルフボール打込みによるキャディ負傷の事例、クラブでキャディをこづいた事例)が、本件以外に除外処分が行われた事例はない。もっとも、昭和六三年二月に、控訴人と同じく法人税法違反により実刑判決の言渡しを受けた会員が訴外クラブから自発的に退会したことがある。

2  そこで、右1に認定した事実に基づき、控訴人に対する理事会の前記除名決議が有効なものかどうか、換言すれば、控訴人に前記ゴルフ場施設利用契約上の債務不履行があり、かつ、これが右契約関係の維持を困難ならしめる程度に控訴人・被控訴人間の信頼関係を破壊するものかどうか、を検討するに、控訴人に対する本件法人税法違反被告事件は、脱税額が約二億四六〇〇万円と多額であって、反社会性が強いものといえる上、控訴人は、以前にも同じく丙川会社の関係で風俗営業等取締法違反の罪により懲役四月、執行猶予二年に処せられていながら、右の犯行に及び、しかも実刑判決の言渡しを受けた後、刑の執行を免れるため逃亡した、というのであって、法規範軽視の人格態度がうかがわれ、その犯情は悪質といわざるを得ない。したがって、右の控訴人の非違行為を知った訴外クラブの会員の中に、控訴人が同じゴルフクラブの会員であることに不快感を抱いた者がいたであろうことは、推察するに難くなく、右の控訴人の所為が、被控訴人の主張にいうスポーツ精神に背く行為であることも否定し得ない。

3  しかしながら、被控訴人が主張するような、訴外クラブ内において、新聞に脱税事犯の被告人として報道された甲野一郎なる者が控訴人(訴外クラブ内における通称・乙山太郎)を指称するものであることが知れわたっていた、という事実は証拠上これを認めることができず、かえって、1(五)に認定したとおり、新聞報道があった後においても、事務局職員、理事や控訴人と親しい一部の者などを除いて、訴外クラブの一般の会員のほとんどは、控訴人が脱税事犯で実刑判決の言渡しを受けたという事実を知らなかったというのである(なお、新聞には控訴人の経営する会社名が公表されていたが、訴外クラブの名簿と対照するなどしてこれを控訴人と関連づけて考えることは、困難と思われる。)。したがって、前記のように訴外クラブの会員の中に不快感を抱く者がいたとしても、それは実際にはごく少数にすぎなかった、といわなければならない。しかも、脱税犯などの法定犯ないし行政犯に対しては、殺人、窃盗、強姦、放火その他の自然犯ないし破廉恥犯に対する場合とでは、その限界は微妙であるとしても、社会一般の評価にはおのずから異なるものがあることは否定し難い事実であり、前者に対して抱く不快感の程度も、一般的には、ゴルフ場施設の快適な利用を著しく困難ならしめるほどのものではない、というべきである。

のみならず、1(三)に認定したとおり、控訴人が脱税事犯で実刑判決の言渡しを受けたことを報じた新聞記事においては、控訴人が訴外クラブの会員であることは一切明らかにされていないのであるから、右の新聞報道によって、訴外クラブの威信なり名誉なりが毀損され、その社会的評価が低下したとはいまだ認め難く、他に、控訴人の本件非違行為のため、実際に訴外クラブないし被控訴人の社会的評価が低下したことについては、被控訴人から格別の主張・立証がない。

4  もっとも、非違行為の性質、態様によっては、右のような会員の知不知や新聞報道の有無にかかわりなく、除名を相当とする場合があることを否定することはできない。例えば、ゴルフ場施設外においてではあっても暴力事犯や窃盗事犯を反覆累行する者とか、いわゆる暴力団組員のような者は、ゴルフ場施設内においても、粗暴な振る舞いに及んだり、他の会員に迷惑を掛けるなどの、他の会員によるゴルフ場施設の快適な利用を妨げる行為に出ることが十分に予測されるから、これらの者との間に契約上の信頼関係を維持することは困難といわなければならない。

しかしながら、脱税犯については、そのような犯罪を敢行したからといって、直ちに、ゴルフ場施設内においても他の会員の快適な利用を妨げるような行為に出ることが予測される、とはいい難い。確かに、控訴人の前記所為は法規範軽視の人格態度をうかがわせるものであるから、ゴルフ場施設外において不正をする者はゴルフ場施設内においてもルールやエチケットに違反するのではないか、との指摘もあながち根拠がないものということはできないのではあるが、控訴人が本件で除名処分を受けるまで訴外クラブに正会員として在籍していた約一八年の間において、その平素のエチケットやマナーに問題があったというような事実は証拠上全く認められないところであって、単に、右の指摘にあるような懸念が存在すること、あるいは、その所為がいわゆるスポーツ精神に背くものであることを理由として、契約を解除し、控訴人のゴルフ場施設利用権をその意思に反して奪うことは許されない、といわなければならない。

5  してみると、控訴人が脱税事犯により実刑の確定判決を受け、刑の執行を免れるために逃亡したことは、いまだ、控訴人・被控訴人間のゴルフ場施設利用契約上の信頼関係を破壊するものとは認め難いというべきであるから、昭和六〇年五月一九日に訴外クラブの理事会の行った控訴人に対する除名決議は、その理由を欠くもので、無効であるといわなければならない。

したがって、控訴人のその余の主張につき判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は理由があるから、これを認容すべきである。

四  よって、これと異なる原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林克已 河邉義典 裁判長裁判官吉井直昭は、退官につき署名捺印することができない。裁判官 小林克已)

〈以下省略〉

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